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かこさとしさん最後の絵本 みずとは なんじゃ?
みずとは なんじゃ?ができるまで
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みずとは なんじゃ?

あさおきて、かおをあらう水。うがいをしたり、のんだりする水。水とはどんなものなのでしょう生活の中で出会う水を通して水の不思議な性質を知り、自然環境に目を向けるきっかけをつくる、科学する心を育む絵本。

25×23cm 31ページ ISBN978-4-338-08161-0 定価(本体1,500円+税)

初回特典
 

たくさんの奇跡が重なり、『みずとは なんじゃ?』は完成しました。初回特典の特製冊子で紹介した内容の一部を、ウェブで公開します。

『みずとは なんじゃ?』ができるまで

かこさとしさんの『水』への思い

かこさんの作家デビューは約60年前、『だむのおじさんたち』(1959年・福音館書店)でした。ダムによる水力発電の物語は『かわ』(1962年・同上)につながっていきます。川は生活に必須な上水となったり、田んぼや畑を潤すだけではなく、木材なども運び、やがて『海』(1969年・同上)へ。そして、7割が海で占められる『地球』(1975年・同上)では、この星が水をたくさん持つ不思議な存在であることも伝えています。また、『あまいみず からいみず』(1968年・童心社)では、水が砂糖や塩を溶かす溶解の作用をやさしく説明しています。しかし、これらの本では、水の特性を幅広く伝えることはできませんでした。

工学博士(化学)だったかこさんは、日々の研究の中で、実験を行うときには水の持つ特殊な力を利用し、水の特異性と大切さを実感していました。

専門的な実験だけでなく、私たちは普段の生活でも水の特性を当たり前のように利用しています。そして、水は私たちの命を保つためにも、なくてはならないものです。そんな水のことを子どもたちへ伝える本を…と、長年かこさんは水の絵本の企画を考えていました。

「絵本を読みながら、生活の中で水とかかわる場面をもう一度確認することによって、水に興味を持っていただきたい」、これが今回の絵本『みずとはなんじゃ?』に込めた思いです。

イラスト

『みずとは なんじゃ?』の原稿ができるまで

■2016年

 
1月 科学絵本の案をもとに打ち合わせ。
このときのタイトルは『水はふしぎな忍者』。
3月 科学絵本の構成案ができる。
タイトル『みずはにんじゃか いったいなんじゃ』となる。
10月 構成案の修正について打ち合わせ。

■2017年

 
4月 絵本原稿・第1稿ができる。
タイトル『みずはとはなんじゃ なにものなんじゃ』となる。
6月 第1稿の修正について打ち合わせ。

■2018年

 
3月21日 第2稿と下絵(絵の案)ができる。
絵を別の画家に依頼することになる。
28日 第2稿の修正案と下絵について、
かこさとしさんと鈴木まもるさんの打ち合わせ。
4月11日 第3稿をもとに作成した鈴木さんの1次ラフについて、
かこさんと鈴木さんの打ち合わせ。
4月24日 第4稿をもとに作成した鈴木さんの2次ラフと
相談事項をかこさんにお送りする。
タイトル『みずとはなんじゃ?』となる。
5月2日 かこさんご逝去。 加古総合研究所を通じて、
かこさんの赤字(修正や注意の指示)が編集部に届けられる。
机に向かうことが難しい中でも、
ベッドの上で原稿とラフをチェックしていたという。
最後まで、「子どもたちのために」を貫く。

通常、画家が絵を依頼されてからラフを完成させるまでには数ヶ月かかる。
今回、突然の依頼にもかかわらず、鈴木さんが「絵本が完成することで、かこさんがお元気になれば」と水の絵本のラフを最優先したことで、短期間に打ち合わせや1次ラフ・2次ラフのチェックなどを行うことができた。

イラスト

かこさとしさんの下絵が伝えるもの

下絵とは原稿を完成させる途中段階で描かれる設計図のようなものです。下絵の紙に使用済みのコピー用紙の裏面を利用しているため、表面に文字などがうっすらと透けています。無駄を出さないようにと、メモや下絵、原稿をコピー用紙やカレンダーなどの裏面に書くことが多くありました。

2、3ページの下絵には、水についてのすべての問題を述べることは他の本に任せ、この本は「幼い子のための水の本」として内容を限定するようにと赤字で書き加えられています。幼い子へ向けた科学の絵本であることを強く意識していたことがわかります。

かこさんは、『みずとはなんじゃ?』のすべてのページの下絵を描いていました。その下絵をもとに、鈴木さんがラフとしてダミー本を作り、かこさんと打ち合わせを重ね、かこさんの意図を確認しながら構図や表現を詰めていきました。

2、3ページの下絵

↑2、3ページの下絵。

幼い子が生活の中で出会う、さまざまな水にかかわる場面が描かれている。鉛筆で四角を描き、文章を入れるスペースのあたりをつけていた。文章と絵のバランスを考えて原稿を組み立てていたことがわかる。赤字で書き加えられているのは、編集者への指示や注意点。

30、31ページの下絵

↑30、31ページの下絵。

ラストには「共生」というメッセージを込めて、さまざまな生き物を登場させる予定だった。下絵には、その一部として人間や鳥、犬が描かれている。かこさんの意図を汲んで、原画にはたくさんの生き物たちが描き込まれた。その中には、かこさんのうみだしたキャラクターたちとともに、かこさんの姿も…。

イラスト

かこ先生からの手紙と『みずとはなんじゃ?』
……絵本作家・鳥の巣研究家 鈴木まもる

かこ先生の作品を最初に見たのは絵本の『かわ』でした。山の頂上から始まり、ペ—ジをめくると、ちゃんと次のページに川がつながっていて、自然や人の暮らしが事細かく描いてあります。ペ—ジをめくるたびに、世界はどんどん広く大きくなってゆき、最後に広い広い海に行きつき、さらに、その先の広い広い地球まで心は広がっていく。本を閉じると、表紙、裏表紙に地図がつながっていて、今見た世界が客観的な形になって取り囲み、1冊の絵本という世界になっている。なんと素晴らしい絵本なのだろうと子供心にインプットされました。

その後、紆余曲折して、自分も絵本という表現世界に身を置くようになり、『かわ』はひとつのお手本というか、目標の作品となりました。もちろん先生の作品と自分の作品では、恐れ多いほど比べ物にならないのは充分理解していますが、かこ先生がやっていない世界、かこ先生とは違う絵本での表現世界をさぐることが、要は自分とは何かを教えてくれることでもあったのでしょう。それが結果として、鳥の巣の世界に向かうことにもつながっていったのだと思います。

自分にとってそんな大きな存在のかこ先生ですから、作品制作でお忙しいだろうから、会ってお話を伺うなんてとても恐れ多くてできませんでした。

それが数年前、鳥の巣の絵本の担当の編集者が、かこ先生の担当ということを知り、会うことはできなくても、自分の絵本を見ていただけるだけで良いと、その人を通じて何冊かの絵本を先生に送りました。

その後、先生からご丁寧にお返事が届きました。その中で拙作に対し、絵の表現、全体の構成、絵本を制作する姿勢などに対し、たくさんの身にあまるお褒めの言葉をいただき、とても嬉しくて宝物として大切にしていました。

小峰書店のぼくの担当の編集者も、かこ先生の担当でした。先生の御容態が悪くなり、先生のご希望で自分が絵を描くことになりました。編集者の最初の電話では、「御容態が急に悪くなるということはないので、そんなに急がないでもよいと思うけど」とのことでしたが、憧れの先生にお会いできるということで、とる物もとりあえず、すっ飛んでいきました。

先生の仕事場で、先生から「よろしくたのみますよ」と三度も手を取って言われた言葉の響きと、手の感触は一生消えないでしょう。

その後、ダミ—本を作り、先生といろいろ打ち合わせをして、「さあ本描きに入るぞ」と思った矢先に先生がお亡くなりになってしまいました…。

絵本が完成することで、先生がお元気になれば良いなあと思ったり、絵を見て喜んでくれると嬉しいなあと思う一心だったのですが、かなわぬこととなり、本当に残念無念です。

絵を描いていても、時々淋しいというのか、ため息が出ることしばしでしたが、「よろしくたのみますよ」と言われた先生の言葉がよみがえり、気持ちを奮い立たせ絵に向かいました。

今回の絵本は、「みず」という日常当たり前のものが、実はとてもとても大切で不思議なものであるということを、身近な事象から始まり、かこ先生らしい大きな世界につなげていくという構成で、自分自身も知らないことが多く、さすが先生と思いを新たにしながら作品に向かいました。幸い先生が描かれた下絵があり、その世界をもとに絵を描いたので、先生の伝えたかった絵本となっていれば嬉しい限りです。

いつもそうですが、絵を描いていると、その世界に入り込み、嬉しく楽しく広がっていきます。今回も、だるまちゃん、『からすのパンやさん』『かわ』『地球』など、たくさんのかこ先生の創り出した世界が絵の中を動き出しました。『みずとはなんじゃ?』の広くて深い世界を感じつつ、かこ先生Worldを楽しんでいただけると嬉しいです。

写真

水の思い出……加古総合研究所 鈴木万里(かこさとし 長女)

1960年代後半の頃、40歳になった加古里子は、川崎で化学会社の研究所に勤務し、日曜日にはセツルメント活動のボランティアとして地域の子どもさんたちに紙芝居を見せたり一緒に絵を描いたりしていました。

当時はカラーテレビ、自家用車、クーラー(エアコンではなく冷房のみ)のことを三種の神器、または3Cと呼び、庶民の憧れ、欲しい物ベスト3でした。我が家はコンクリート2階建の長屋のような建物の一角で、この3つのうち1つもない生活でした。

当然、夏の暑さは厳しく、扇風機でしのぐしかなかったのですが、ここで加古は水冷クーラーの設置を思いつきました。屋根の上にホースで水を上げ、その冷却熱で屋内の温度を下げようという算段です。果たしてその効果はどうであったかというと、とりたてて涼しさを感じた訳でもなく、かと言って暑さがひどいこともなく、まさに微妙なものでした。

屋根は数軒分がつながっていて、平らとはいえ、自分の家の屋根部分だけに水を保つことは難しく、保水状態を保つ良い素材もなかったのです。半世紀近く過ぎた2004年になって、ある研究室が加古が試みたことを実用化すべく、保水機能に優れた特殊な塗料のようなものを開発、これによって水をムラなく維持、放射冷却により温度低下が得られるというニュースを聞いて、そうか、あの目論見もいい線いってたんだと、家族で笑ったものです。

今でも暑い夏の日にエアコンをつけるたびに遠い日の加古の水実験を思い出し、私は一人でニヤニヤしています。

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みずとは なんじゃ?
かこ さとし

1926年福井県武生(現・越前市)生まれ。1948年東京大学工学部卒業。工学博士。技術士。
民間化学会社研究所に勤務しながら、セツルメント活動、児童文化活動に従事。1959年から出版活動にかかわり、1973年に勤務先を退社後、作家活動とともに、テレビニュース児童問題キャスターや東京大学、横浜国立大学などで児童文化、児童行動教育論の講師などをつとめた。また、パキスタン、ラオス、ベトナム、オマーン、中国などで識字活動、障害児教育、科学教育の実践指導などを行い、アメリカ、カナダ、台湾の現地補習校、幼稚園、日本人会で幼児教育、児童指導について講演実践を行った。
『だるまちゃんとてんぐちゃん』『かわ』(福音館書店)、『からすのパンやさん』(偕成社)、「かこさとし 大自然のふしぎえほん」シリーズ、「かこさとし こどもの行事 しぜんと生活」シリーズ、「かこさとし あそびずかん」シリーズ(小峰書店)など、500冊以上の児童書の他、『伝承遊び考』(全4巻・小峰書店)など著書多数。
土木学会著作賞、日本科学読物賞、児童福祉文化特別賞、菊池寛賞、日本化学会特別功労賞、神奈川文化賞、川崎市文化賞、日本児童文学学会特別賞、日本保育学会文献賞、越前市文化功労賞、東燃ゼネラル児童文化賞、巌谷小波文芸賞などを受賞。
2013年春、福井県越前市に「かこさとしふるさと絵本館 砳(らく)」、2017年夏、「だるまちゃん広場」「コウノトリ広場」などがオープン。
2018年5月2日、逝去。

かこさとしさん 公式webサイト
鈴木まもる

1952年、東京生まれ。東京藝術大学工芸科中退。
「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)で赤い鳥さし絵賞、『ぼくの鳥の巣絵日記』(偕成社)で講談社出版文化賞絵本賞、『ニワシドリのひみつ』(岩崎書店)で産経児童出版文化賞JR賞、『世界655種 鳥と卵と巣の大図鑑』(ブックマン社)であらえびす文化賞を受賞。
主な絵本に、『ピン・ポン・バス』(偕成社)、『せんろはつづく』(金の星社)、『ウミガメものがたり』(童心社)、『みんなあかちゃんだった』『どうぶつのあかちゃんうまれた』『あかちゃんたいそう』『ぺったん! サンドイッチ』『だっこ』『かおるとみんな とき とき とき』『かおるとみんな くりん くりん』(小峰書店)、ノンフィクション・エッセイに「バサラ山スケッチ通信」シリーズ(小峰書店)などがある。
また、鳥の巣研究家として、『鳥の巣の本』『世界の鳥の巣の本』(岩崎書店)、『ツバメのたび』『日本の鳥の巣図鑑全259』(偕成社)、『わたり鳥』(童心社)、『生きものたちのつくる巣109』(エクスナレッジ)、『巣箱のなかで』(あかね書房)などの著書があり、全国で鳥の巣展覧会を開催している。
鳥の巣研究所(鈴木まもる公式ホームページ)

鈴木まもるさん 公式ブログ