ソ・ヨン文・絵 斎藤真理子訳
© Seo Young
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静かに暮らすおじいちゃんのもとに、ある日、やってきたおきゃくさま。明かりを持って、おじいちゃんの旅のおともをしてくれるようです。おじいちゃんは大喜びで、旅に出る支度を始めます。春、満開の桜の中、おじいちゃんは出発します。大好きな人たちに会いに行くために―。
誰にでも訪れる「旅立ち」を、あたたかくやさしいまなざしで描いた韓国の絵本。
本作の翻訳を手がけたのは、翻訳家の斎藤真理子さん。これまでにも数々の韓国文学作品を翻訳されてきた斎藤さんに、本作の魅力や韓国の絵本についてお聞きしました。
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本作には、韓国の文化やくらしに関係するアイテムが所々で登場します。その中から特に気になる5つをピックアップしてみました。みなさんはいくつご存知でしょうか?
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靴箱の上のかぼちゃは、作者のソ・ヨンさんの小さい頃の思い出が元になっています。ソ・ヨンさんが「かぼちゃがゆが食べたい」というと、一緒に暮らしていたおばあちゃんが、かぼちゃの中身をかき出して作ってくれたそうです。「隅っこにずっと置かれて熟する準備をしているかぼちゃは、この本の中のおじいちゃんと似ている感じです」(ソ・ヨンさん談)
※かぼちゃがゆ/ホバクチュク(호박죽)……韓国で寒い季節によく食べられている伝統的なメニューで、かぼちゃのおしるこのようなもの。ほんのりと甘く、体にもやさしい。
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旅支度をはじめたおじいちゃんは、たまごをゆでます。実は韓国の人にとって、旅に欠かせないのがゆでたまご。昔から、たまごとサイダーが定番の「旅のおとも」なんです。最近では、韓国のスーパー銭湯「チムジルバン」のおともとしても定番化しており、ドラマなどでもよくその光景をみることができます。
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お風呂あがりのおじいちゃんが、おきゃくさまと一緒に顔にシートパックを貼っている様子は思わずくすっと笑ってしまいます。若者の間では「1日1パック」という言葉もあるほど、浸透している美容アイテム。たくさんの種類があり、韓国旅行のおみやげとしても人気が高いです。おくさんと会えることがわかったおじいちゃん。かっこいい姿を見てもらおうと、はりきっています。
※シートパック……薄いコットンに、お肌にいい成分がたっぷりしみこませてあるシート状のフェイスパック
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友人のファンさんとの対決にそなえ、おじいちゃんは囲碁の本もリュックサックに入れていました。韓国は囲碁の強い国で、常に世界ランキングの上位を争っています。子どもたちの習い事としても人気が高く、囲碁の道場も充実しています。おじいちゃんとファンさん、どちらが強いのでしょう?
※囲碁……縦横それぞれ19本の線を引いた碁盤の上に、白と黒の碁石を並べて陣地を取り合うゲーム。
おくさんと一緒に食べるために、とりのまるやきを買うことにしたおじいちゃん。このとりのまるやきも、韓国ではおなじみの食べ物です。その名の通り、大きな釜に鶏を一羽まるごといれて焼いたり、揚げたりしたもので、おやつやおつまみによく食べられています。韓国の市場にもトンタクのお店があり、できたてサクサクを食べることができますし、デリバリーサービスも充実していてすぐに持ってきてもらえます。
最期のページがとても印象的で、満開の桜の中を通り抜ける風の中におじいちゃんの笑顔を見た気がして、胸がぎゅっとなり、涙が止まりませんでした。絵本だからとお子さんだけではもったいない。大人にも読んでほしいと強く願います。おじいちゃんは自分の運命を穏やかに受け入れ、「かなしくないよ。うれしい。大好きな人へ会いに行くんだから」という。残される人にとって、大切な人が遠くへ行ってしまうのは悲しくて、さみしくて、とてもつらい。でも大切な人が遠くでも笑顔でいてくれるなら。私がいつか行くときもきっと笑顔で迎えてくれる。そう受け止めることができれば幸せなことだと思います。私は、怖がらず、楽しみに行くことができるだろうか。そう考えずにはいられません。絵や色合いも優しく包み込んでくれるようでとても素敵です。ずっと大切に読み継ぎたい1冊です。4歳の姪に読み聞かせた時、「ピンクかわいい」「ほわほわの白いおきゃくさまかわいい」「旅の準備楽しそう」と夢中になってくれました。特に巻末のたびのしたくのこまごました持ちものに興味津々で一つ一つの持ちものについての説明をくりかえし読まされました。ゆでたまごを7個も持っていくのがくいしんぼうだとお気に入りの様子でした。まだ「死」ということは難しいようですが、お気に入りのポイントが出来たようで嬉しかったです。大きくなったときに、心に残る一冊になるといいなと思います。
興文堂i-CITY店 名和真理子さま
鼻の奥がツーンと痛くなりました。長い旅立ちを見送るのは悲しいけれど、場面ごとに変化するおじいちゃんの表情が、読み進むごとに少しづつ少しづつ私たちを安心させてくれますね。身近な人の旅立ちの時、この絵本に手がのびると思います。
興文堂平田店 奈良井和子さま
泣けますね…でもおじいちゃんみたいに楽しく旅の支度ができるならどんなに嬉しいことでしょう。 好きな人のために身だしなみを整えて、好きな物を持って!! 自分もお客様が来てくれて楽しく準備して旅に出れたらいいな。と思います。旅が春なのも素敵です…桜の余韻がさらに旅立ちを引き立たせますね。
コメリ書房鈴鹿店 森田洋子さま
なんて素敵な絵本なんでしょう! まさに旅支度。わくわくしながらしたくをするおじいちゃんがチャーミング。こんな風に旅立てたら幸せだなと思いました。死を怖いものではなく、ポジティブに子ども達に伝えることのできる絵本だと思いました。
東京旭屋書店新越谷店
猪股宏美さま
おじいちゃんのたびじたくの持ち物がとても可愛らしくて、今度は何を用意するのかな?とワクワクして読みました。おくさんが迎えに来てくれると聞いたおじいちゃんの喜びようと、身ぎれいに(パックまで!)するところを見ていると、おくさんのことが大好きなんだなぁと伝わってきてほほえましい。「のこるみんなにはすまないけど、かなしくない、うれしいよ」という言葉で残る側としては少し安心できるような気がします。本来だったらとっても寂しい旅立ちですが、むこうについて大好きな人と会えるんだなと思うとこちらも「いってらっしゃい」と明るく送り出せそう。
長崎書店 中山理紗さま
数年か、数十年か…ずっとずっと会いたかったその人が待っていてくれる。そう知ったおじいさんは途端に活力が湧きあがり久しぶりに念入りにひげをそりめかしこんだ。私はこの場面が一番好きです。人生のどんな難しい場面においても人の心の糧となるのは愛なのだと、この本を読んで思い出しました。そして同時に、当たり前の顔をして毎日そこにある、たくさんの人・物・ことがたまらなく愛おしくなりました。今ある幸せに気づかせてくれる、すてきな終わりの始まりの絵本です。
ブックハウスひらがきエイスクエア店
福島明子さま
おじいちゃんの楽しかった人生も思い出しながらのたびじたく♪ ちっともこわくも、不安もない。楽しみにしていたおじいちゃんに、何年もかけてすっかりたびじたくができていた感じが伝わり、残された家族もおじいちゃんいってらっしゃいって感になれる終活えほん。
Book Yard CHAPTER3 森安さま
最初から最後まで明るいトーンの絵でほんわかしていてすてきでした。おきゃくさまも普通は怖く書かれたりすることが多いけどとてもかわいいし、おじいちゃんもかわいくて、こんな風に自分の好きな人、大切な人がたびにでたなら安心だな、笑顔で見送られるなと思いました。なによりもおじいちゃんが楽しそうにしたくをしているからすくわれます。おじいちゃんが持っていたものが描かれたページが好き。おじいちゃんは何をもってたびだったのか、自分だったら何を持っていきたいかなー。明るい気持ちで、あたたかい気持ちで読める本でした。
八重洲ブックセンター石神井公園店
山下裕子さま
ある日 おじいちゃんの家に ほわほわした白いおきゃくさまがたずねて来ました。これから遠くに行くそうです。何を持って行こう 何を着て行こうとおじいちゃんはわくわくと楽しそうです。のこる家族のみんなのことを考えると すまないと思うけど、おくさんに会えるのはすごく楽しみ!かわいくて 優しくて あたたかい おはなしで、遠くに旅に出るのは悲しくはないんだと教えてくれました。遠くに旅立つことがこわくなくなりました。年を取った時、ほわほわさんが来てくれることが楽しみでもあります。絵もすごくかわいくて、大好きな絵本になりました。ありがとうございました。
らくだ書店城北店 川瀬春美さま
表紙のおじいちゃんのかわいらしさと、ランプを持ったおきゃくさまのキャラがとても愛らしくて、そして期待感にすでに胸が熱くなる想いでした。読み進めながら、子どもにも大人にもわかるわくわく感が魂を揺さぶります。いつか必ず誰もが旅に出る、その普通とちょっと特別な準備に、くすっと笑ったり(泣き笑いに近いですが、おじいちゃんの顔パック最高です!)、どんどん背を押され、タイミング良く人生の景色が回想され、どっと涙が出てしまいました。父を思い出してわんわん泣いてしまいました。いつか出会う懐かしい人々のために、残す家族にしっかりと絆を伝える、そんな愛おしい本に、久しぶりに出会いました。そして大切な人に贈りたい一冊です。私の生涯を掛けて、お客様や大切な方に送り続けたい本です。素晴らしい本をありがとうございます。初泣きが大泣きになってしまいました。嬉しい涙です。
ロザリオ 川原田功子さま
とてもとても素敵なお話でした。悲しくはないのに、何度読んでも涙が出ます。おじいちゃんのはればれとした笑顔。本当に嬉しそうでなんだかほっとしてこちらも笑顔で見送ってあげられますね。満開の桜もおじいちゃんのたびだちを優しく見守っている様です。長く大切におすすめしたい1冊になりました。
永里里美さま
逝去とはこの世を去り、あの世にいくこと。このおじいさんのように幸せな人生を振り返れたら、人生悔いなしで最期を迎えられたらどんなに幸せだろう。そのために、1日1日大切に生きなくてはと思いました。あの世で亡くなった義母は楽しくやっていることでしょう。
Oさま
悲しい、さみしいお話のはずなのに…。なぜか、ホッとそして安心しておだやかな気持ちになりました。私自身、年老いた父母との残された時間を日々考えるようになって、さみしい気持ちになっていました。いずれは…と思ってかくごしている旅立ちですが、絵本を読んで本人は少しずつ旅立ちの準備をしているのかなと思い、私も少しずつ、心の準備をしていこうと思いました。旅立ちの時がくるのは本当にさみしいですが、そんな時はこの本を思い出し、おだやかに旅立ちをむかえてあげられたらと思います。
Sさま
© Seo Young
1日1日が大切になってきた12歳の猫「ナボン」と暮らしながら、ゆっくりと絵本を作っている。創作絵本グループ「トレアル」で活動中。おもな作品に『たまごと練り粉』『時計探偵123』がある。
1冊1冊とじっくり向き合いながら、精力的に翻訳をしている。訳書に『フィフティ・ピープル』(チョン・セラン著/亜紀書房)、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著/筑摩書房)など多数。『カステラ』(パク・ミンギュ著、ヒョン・ジェフンとの共訳/クレイン)で第一回日本翻訳大賞受賞。