今はすっかりなくなりましたが、私が小さい頃にはよく停電が起こりました。突然、家中の電気が消えて、真っ暗になるのです。外を見ると、町中が真っ暗。冷蔵庫の中も真っ暗。そうなると、活躍するのがろうそくでした。母親が手探りで探したマッチでろうそくに火をつけます。真っ暗な中にぽっとともる小さい火。その火を見ると、ほっとしたものでした。いつもは白々と蛍光灯に照らされている家の中も、ろうそくのゆらめく黄色い光の中で、なにやら別の世界に見えました。
その記憶のせいでしょうか。闇の中にぽっとともる灯りのイメージが好きで、昔からそういう絵をたくさん描いていました。その中の一枚に、気になるものができました。一人の少年が手に小さな火のともったろうそくを持って、暗い森の中を歩いている絵です。自分で描いたものなのですが、その絵を見ていて、「この少年はいったいどこへ何をしに行くんだろうな」と思いました。
そこから、火というものにまつわる記憶がいろいろ蘇ってきました。
キャンプファイヤーの大きな火とそれに照らされていた友だちの顔。
夏にみんなでやった花火の色。
停電の家の中でろうそくのまわりに集まっていた家族の大きな影。
毎日お湯をわかしたりお料理をしたりするコンロの青い火。
寒い家の中を暖めてくれる薪ストーブのぬくもり。
よく行く温泉にともっているランプのやわらかい灯り。
それからそれから、誕生日、ケーキにたつ色とりどりのろうそくのうれしい火。それを吹き消した後のうれしいような、さみしいような気持ち。ろうの匂いと白い煙。
そうして、少年の持っている火がいろんな人に出会って、いろんなものに形をかえていくというアイデアが、ぽっと火がともるように心に浮かびました。それはすぐには形にならず、私の胸の奥にしまわれました。
でも、その火は、小さいけれど静かに確かに燃えていました。編集者さんとの幸運な出会いがあり、私はこの小さな火のことを思い出しました。編集者さんがふうぅーっと風を送ってくれて、小さな種火はまた燃え始めました。そうして、いろいろ形を変えながらどんどん大きくなり、こうして一冊の絵本になりました。みなさんの心にも、小さいけれど暖かな火をともす絵本になりましたらうれしいです。 |